鋼の意思

また寄ってしまった。最近仕事が終わってから、近場の喫茶店に行くのがやめられない。こうも寒いと、無性にあれが飲みたくなってくる。店員に、上に生クリームがのっかったやつを勧められた。期間限定だそうだ。名前までは聞いてなかったが。見た目は随分と甘そうだなと思いながら、マイクに向かって注文をした。

「あ、じゃあチャイティーラテのトールサイズを一つ。で、無脂肪ミルクの熱めでお願いします。」

これが、自分の注文の全てである。期間限定とか、オススメとか大体の日本人はそれに弱い。が、そういったものに屈する私ではない。毎回注文が同じなので、最近だとご注文は以上でよろしいですかとも聞かれなくなった。ちなみに熱めっていうのはこの世界だと、エクストラホットというらしい。では、ぬるめにもきちんとした用語があるのだろうか?

ドライブスルーでの声の主はやはりいつもの人だった。チャイが好きなんですか?と聞かれたから、はい。そうなんです。と軽く返した。専らそれしか頼んだことないから他に答えようがないが。いや?一度ホワイトモカというものを飲んだことがあったか。奥にいる人がせっせこ作っている間、さっきの人に中にはチャイにエスプレッソをトッピングする人が居るんですよーっと言われた。

そして一昨日。また同じものを頼むつもりでいた。しかし昨日は、昨日だけは少し違った。私の中に、小さな冒険心が芽吹いたのだ。チャイにコーヒー要素を加えると一体どうなるのか、と。当初私は懐疑的だった。なるほどそんな物好きな人が居るのかと思っていた。チャイとコーヒーって相性いいのか?いや、だがもしかすると、もしかするかもしれない。意外と美味いかも。事によっては、私の貧弱なラインナップに一石投じる結果になるやもしれぬ。

「あ、じゃあチャイティーラテのトールサイズを一つ。で、無脂肪ミルクの熱めで、えすぷれっそをショットしてください。」

やったぜ。実に久方ぶりに違う飲み物を頼んだ。厳密にはこれもチャイであることに変わりないが。それでもって、せっかくだから俺はこのイチゴのケーキも注文しちゃうぜ。イチゴのケーキ。そう、私が最初か2番目のブログで触れた、あの朝食で食べるジャムパンのようなソフトな口当たりのあのケーキである。最近これを冷蔵庫に入れたまま存在を忘れて、2,3日放置しておくといい感じに固くなってもっとおいしくなることに気づいた。

「へへ。どれ、知る人ぞ知る、エスプレッソぶっかけチャイとやらを私も体感してみますか。」

・・・・・・・・・。

・・・・・・うん?

何だろ?この、コレジャナイ感。確かにこれもこれで、アリではあると思う。が、シナモン独特の甘さやかほりが、この飲み物においては完全に死滅しているのである。これはもはやコーヒーである。もっと言うならば、缶コーヒーに近いぬるんとした甘さのちょっぴりほろ苦な感じの味だった。これはエスプレッソの味が強すぎるが故か?やはり朱に交わっても黒は黒ということか。

ちょっと待って。チャイの原型ないやん。チャイが飲みたかったから注文したの!どうしてくれんのコレ?やっぱいつものやつにしとけばよかった。

というわけで、私のささやかな幸せは打ち砕かれてしまった。全ての元凶は私の胸のうちに芽生えた小さな冒険心。冒険心は人を殺すとはよく言ったものだ。しかしたった1回の失敗で懲りる私ではない。人の趣向はそう簡単には変えられない。今日もまた私は寄るだろう。そしてまた、同じものを頼むだろう。

「チャイティーラテのトールサイズを一つ。で、無脂肪ミルクの熱めでお願いします。」

板橋